アメリカ・ロードアイランドにあるプロビデンス・ジャーナル紙の記者が、興味ある考察をして話題になった。
2014年シーズンもスプリング・トレーニング開始から2014年4月15日までに主力級の投手がトミー・ジョン手術を受けることになった。
たとえば、パトリック・コービン(ARI)、ジャロッド・パーカー(OAK)、クリス・メドレン(ATL)などのスターター達だ。
「投手のヒジは消耗品」という認識で、球数制限などが厳密なMLBだが、日本よりもはるかに多くの投手が、トミー・ジョン手術を受けている。
以前にも紹介したが、米スポーツ医学誌『アメリカン・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディスン』に掲載された論文によると、1986~2012年の間にトミー・ジョン手術を施されたプロの投手は216名になるという。
その中で、手術後に復帰できなかったケースはわずか5件。また、復帰を果たした投手のうち179名が再びメジャーリーグの舞台で投げた。
この事から、より身近な外科治療的な感覚で日本よりはシンプルに捉えられている。現に投球技術が未熟な若手選手の間でも手術を受けているケースもあり、20代前半の方が、術後の球威が落ちないというデータもある。
※しかし、1999年から2011年7月までに手術を受けた147人の投手のうち、復帰後、1年に10試合以上登板できた投手は67%。復帰できなかった投手も20%というデータもある。
メジャーに復帰するだけなら90%を超える確率と言われてきたが、実は80%。しかも、1シーズンで10試合以上投げられるまでに復活できた投手は67%しかない。
球種の多様化も原因?
プロビデンス・ジャーナル紙の記者によれば、「カットボール(カッター)、スプリットという球種がトレンドになった事がヒジの故障につながっている」という。
すでに医学的には、スプリットやカッターが肘に負担をかけるという事が明らかであるにもかかわらず、MLBの投手がそれを選び、なぜ首脳陣がそれを許しているのかという疑問が出てくる。
レッドソックスの監督で、元投手であり、投手コーチの経験もあるジョン・ファレルは、「理想はファーストボールとパワーのあるカーブのコンビネーション」だとしていますが、レッドソックスで言えば松井秀喜と好勝負を演じたペドロ・マルティネスやヤンキースの守護神マリアーノ・リベラなど球史に名を残す近年の選手たちはカットボールの使い手として成功した。
スプリットとでいえば、野茂英雄、佐々木主浩、上原浩治、岩隈久志などの日本人メジャーリーガーが有名。
アメリカでは投手の球種などのデータが豊富で充実している。それらの数字から分かる傾向として、かつてのようなファーストボールとカーブ主体ではなく、カッターとスプリットが増えていると記事では述べている。
レッドソックスであれば、バックホルツがスライダーからカッターに、ジョン・ラッキー(カブスに移籍)がカーブからカッターに、そしてジェイク・ピービー(現SFジャイアンツ)が新たにスプリットを持ち球に加えている。
カーブやストレートは主に肩に負担がかかり、カッターとスプリットは、肘に負担が多くなることが明らかになっていると述べて、このカッターとスプリットの隆盛が肘の故障が続出する原因となっているのでは?という指摘だ。
ストライクゾーンの変化
MLBの投手がそれを選び、なぜ首脳陣がそれを許しているのかという疑問に対しては、ストライクゾーンの変化やスカウンティング技術の向上などを挙げている。
ストライクゾーンの問題は、ストライクゾーンが以前より厳しくなっているとジェイク・ピービーが述べていることを引用し、それに加えて打者もボールを振らなくなり、曲がりの大きいカーブやスライダーが「ボール」と判定されやすくなっているとしている。
見きわめにくい球種、スプリット、カッター
しかし、一番の原因は、このカッターとスプリットが打者にとって見きわめにくい球種であるということだ。
重要なのは球種ごとに投球フォームやリリースポイントが変わらないことだが、カーブやスライダーは多くの投手にとって微妙な違いまではコントロールしきれない球種。
一方、スプリット、カッター、そして2シームは、4シームと同じような腕の振りとリリースポイントで、かつ回転も落ちにくい上に、打者の手元で変化するので、打者には見分けがつきにくくなる。微妙にバットの芯を外され凡打になる。
黒田博樹がインタビューなどで明かして話題になった「フロントドア」の2シームでも、黒田は左打者の場合、すっぽ抜けてそのままインコースのボールになってもいいと言う感覚で投げるので、危険は少ない球種として使っている。
同じリリースポイントから投げられると、打者には球種の見きわめがつきにくい変化球。そうしたメリットがあって、ヒジに負担がかかってもメジャーの投手たちがカッターやスプリットを持ち球に加えているという考察だ。