岩隈の投球術とさまざまなラッキーが重なったノーヒッター
岩隈久志が、ノーヒット・ノーランという偉業を達成した。大記録の陰にはさまざまなファクターが絡んでくるものだ。
岩隈の偉業を振り返ってみたい。
雨の多いシアトルだが、この時期は快晴が続く。ところがこの日は、珍しく雷を伴った雨が午前11時過ぎから降り始め、セーフィコフィールドの開閉式の屋根が閉められた。
午後12時過ぎには晴れ間がのぞき、一旦屋根が開いたものの、試合が始まってしばらくすると再び雨雲が接近し、屋根は閉まったという。
実際、NHK-BSの中継でも冒頭のシーンでセーフィコの屋根が半分閉まっていて、いつもと違う違和感を感じた。これが岩隈に味方した。
夏場のシアトルは春先とは違って極端に乾燥する。すると、打球は伸びる。しかし、この日は湿気があったので、ボールは飛ばなかった。
初回、長距離打者クリス・デービスがレフトのフェンス際まで打球を運んでいる。あれが普段のシアトルの夏のデーゲームであれば、最後に失速したかどうか疑問符が付く。
場合によっては、レフトの最前列に飛び込んでもおかしくない当たりだった。
8回のダブルプレー、中3.5日の岩隈を救った
8回のジョナサン・スクープへの四球。この試合3つ目の四球です。7回までに90球だった。一般的には少ないほうだが、岩隈は後半戦に入ってから中4日でのローテーションが続いていた。
今回に関してはデーゲームだったので、正確にはいわゆる中3.5日だった。
このブログでも紹介したが、前回のテキサス・レンジャーズ戦では自己最多の118球を投げており、その後しばらく体の張りが取れなかったそうだ。
それまでに1本でもヒットが出ていれば、ロイド・マクレンドン監督も躊躇することなく7回で交代させていただろう。無理をさせていることは分かっていた。
そうした疲れから8回のスクープへの四球。あれで1死一塁。その直後の場面でのダブルプレーは大きかった。
その時点での球数は102球。ここから2つのアウトを取るのに2人の打者と対戦していたら、8回終了時点で球数は120球近くになっていたはず。
それでも無安打なら9回のマウンドに上がったはずだが、120球を超えればボールの抑えは効かなかったかもしれない。
あそこをダブルプレーで切り抜けたことは、岩隈を救った。
パーフェクトゲームとノーヒットノーランは、途中どこかで守備のファインプレーに救われるもの。
今回、それは9回に出た。デービッド・ロウ外野手のフェンス際のファウルフライ。カイル・シーガー三塁手はフェンスとの距離を慎重に計りながら好捕した。
ただ、あの打球は落としてもファウル。落としたらノーヒットが消えるというケースとはプレッシャーが違う。そういう意味では、岩隈は最後までヒット性の打球を許さなかったことになる。
岩隈の投球術を堪能できた試合
米スポーツ専門局『ESPN』の看板番組「スポーツセンター」で紹介されていたが、この日、岩隈がストライクゾーンに投げたのは40.5%で、キャリアでもっとも低い数字だったという。
数字だけを見ればノーヒッターは想像できないが、ここに岩隈の真骨頂を見ることができる。
ストライクゾーンを縦横、奥行きまで立体的に使う岩隈の投球術。際どいゾーンにボールを出し入れしながらボール球を振らせ、凡打の山を築いた。
誰でもできる投球術ではない。「一流投手」の神業とみたい。
岩隈の投球内容は、29人の打者に対し三振7、四球3、ゴロアウト11、内野フライ2(ライナー性1)、外野フライ6(ライナ性ー2)だった。