MLB メジャーリーグ物語

海を渡ってMLBで活躍する日本人メジャーリーガーたち

アストロズに厳正な処分 好成績の裏に潜む盗撮テクノロジーの悪用

「サイン盗撮問題」

 

アストロズオーナーはGM、監督を解任

 

 アストロズが最先端の電子機器を駆使して積極的かつ組織的に「サインを盗む」不正行為を繰り返していたとしてメジャーリーグ機構(MLB)が球団関係者を処分している。

 

 MLB公式サイトがヘッドラインで伝えているこの不正事件だが、昨年秋から調査が進められた結果、球団には規定で定められた最大限の500万ドル(約5億5千万円)の罰金および、今年と来年のドラフト1、2巡目の指名権剥奪の処分を下された。

 

 メディアによると選手への処分は見送られアストロズルノーゼネラルマネジャーGM)とヒンチ監督には今季終了までの職務停止処分が科さられた。

 

 ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは声明文を発表。その中で調査部門が16年までさかのぼり、現役選手23人、元選手を含めると69人を事情聴取し、数万件のメールやテキストメッセージ、動画、写真などを精査したということを公表。

 

 その結果、判明したのは、アストロズが球団史上初のワールドシリーズ制覇を成し遂げた17年にセンターカメラからのライブ映像をチャレンジ権行使の判断するための「ビデオリプレー・ルーム」(映像検証室)を舞台に不正な盗撮行為が繰り広げられた。その場所で解析したデータをもとに、ごみ箱を叩いた音で打席内の選手に伝えていた事実を確認したという。

 

 18年にはMLBが傘下30球団に向けて電子機器を使ったサイン盗みへの警告を通達していたのにも関わらず、それを無視して最新機器を駆使して盗撮映像の悪用を続けていたことを明らかにした。

 

 

ヒンチ監督時代の華々しい5年間

 

下記は、過去10年間のアストロズの成績だが、09年から14年まで6年連続で負け越している。

 

09年 中地区5位

10年 中地区4位

11年 中地区6位 106敗

12年 中地区6位 107敗 

13年 西地区5位(NLからAL)3年連続100敗以上の111敗で最下位

14年 西地区4位

15年 西地区2位、ワイルドカード、地区シリーズ敗退 (A.J.ヒンチ監督就任)

16年 西地区3位

17年 西地区優勝、ワールドシリーズ優勝

18年 西地区優勝、リーグ優勝決定シリーズ敗退

19年 西地区優勝、ワールドシリーズ敗退 

 

 

 今回処分の対象になったA.J.ヒンチ監督が就任したのは15年。若手が台頭し、ワイルドカードからだったが、10年ぶりにポストシーズンに進出した。

 

 そして、17年にはホセ・アルトューベやカルロス・コレアやジョージ・スプリンガーといった若手有望株、左腕ダラス・カイケルらが主力に成長。右腕ジャスティン・バーランダーをシーズン途中で獲得した補強策も功を奏し、球団史上初となるワールドシリーズを制覇している。

 

 ヒンチ監督が就任してからアストロズでの5年間の通算成績は481勝329敗、勝率.594。ワールドチャンピオン1回、地区優勝3回、ポストシーズン4回進出という輝かしい成績を残した。

 

 

好成績に疑惑の目が向けられた

 

しかし、こうしたアストロズの急な再建、好成績に疑惑の目を転じた解説者もいた。

 

ヤンキースアレックス・ロドリゲスは、テレビの中継で、再三のようにアストロズの疑惑を指摘していた。

 

とは言え、ロドリゲス自身も不正薬物の使用で数度の出場停止(最長は1年)を受けて、「謝罪文」を発表して球界復帰している経緯もあり、悪党同士は不正の臭いをかぎ分けるぐらいに感じていたが、アストロズに関しては、一線を越えたという判断をMLBから下されたようだ。

 

 これまでも“クセを盗む”ことはあった。勝負の世界においてどの競技でも、例えば格闘技でも相手を解析し勝利のための手立てを研究するのは良くあることだ。盗撮テクノロジーが進歩して高性能の機器を使用するのも分かる気がする。

 

 

解析や分析とサインを盗む行為の違い

 

 昨年11月16日のニッカンスポーツの四竈衛(しかま・まもる)氏の記事が興味深いが、2000年代までは、メジャーでは二塁走者として捕手のサインを身ぶり手ぶりなどで打者に伝達した選手は、次の打席でブラッシュボール死球報復を受けることが珍しくなかったという。

 

 草野球でもありそうだが、こうしたアナログな手法を用いても“汚い”行為とみなされ、選手間でも恥ずかしい行為として認識されていた。

 

 今回は、球団が組織ぐるみで最新機材を駆使して盗撮し、そのデータを違う方向で利用したということで、それは「卑怯者」とみなされて処罰された。度を越した行為かもしれない。

 

 GMと監督の解任、ドラフト指名権に対するペナルティーで、幕引きが行われたようだが、アストロズ以外でも、レッドソックスにもそうした嫌疑がかけられている。

 

 アストロズベンチコーチを務めていたアレックス・コーラ氏が、18年からレッドソックスで監督を務めているからだ。コーラ監督は就任1年目でワールドシリーズを制している。

 

 

 

▽記事参考

https://www.nikkansports.com/baseball/mlb/column/shikama/news/201911160000198.html